格差の構造


[絶対差]
スーパーで
目玉商品を漁っているときも
電磁取引で
数億円を稼いでいる人たちがいる

[いつもながら]
紙をどんどん刷って
資産価値を吊上げ 吊り上げ

毎度お騒がせ しながら
廃品業者に
こぼれ落ちた衆愚を回収させている

[最低賃金]
弱者は 時間を赤字にして働き
強者に 黒字を貢いでいる

[成金者]
贅沢こそ豊かさと思い込んでいる
儲けのあぶくを総身に浴びて
びしょ濡れの優越感に浸っている

[入れ替え] 
夕闇の海中へモルディブの島々が
身もだえしながら沈んでいった

夜が明けると
近くの海上に
広大な軍事施設が浮上してきた



酷暑の日々


暑い 暑い
で 氷イチゴに逢いに行く
と 氷店が融けてなくなっていた

ならば
と いつも冷たいあの女に逢いに行く
融けてしまったという

ならば
いつも氷イチゴの
涼やかなあの女に逢いに行く
居留守を使われる
みんな 融けてしまったのか

あゝ 酷暑のなかのサウナ風呂
緑したたる森よ いずこ

いつの日か
そよ風の河岸から
花火を見あげるときがくる
いつの日か
冷雨で浴衣を濡らすときがくる

口笛なんか吹いちゃって
顔を融かしながら

覚悟せよ


紙幣で地球をぐるりと巻いて
刻々と締めつけていく
世界一の借金国

この国で生存する限り
誰でも
毎日 生存税を納めねばならない
いくら税率をかさ上げされてもだ

いよいよ
めでたく生存を終了するときは
誰でも
死亡税を払わねばならない
いくら目玉が飛び出るほどであってもだ
一回かぎりだから

払えない?
払いたくない?

それでも よろしい
その代わり 死なせてあげない
永遠に
永遠に累増する税からの
締めつけから逃れられない

覚悟せよ

茶番劇


[議論]
行き止りの細道を
行ったり 戻ったり
たがいの文法を
投げたり 受けたりして

[策略]
けじめのない弁解が延々と…
いい加減にしてよ
脳にタコができてしまうよ

ようやく
こちらの番になった が
しまった!
用意した質問 ぜんぶ忘れてしまっていた

[答弁]
繰り返し はぐらかし
はぐらかし 繰り返し

突然 簡単に断言する
ことの本質が分かっていないから
辻褄が合わなくても平気

いつまでも喋らせておけ
次への愚行をさせないために

百年目


もう帰りましょ
最後のメッセージを交わしたあと
吹きすさぶ砂塵のなか
あなたはどこへ行ったのか

あれから百年
声をかぎりに
熱気球を飛ばしつづけた日々
奈落の底に喉ごと落ちてしまった

あな と思ったら
あなたが と思ったら
あなたがいた と思ったら
それは 気だるげにうずくまる黒猫

教会の尖塔に止まって
疲れ果てた身体を干していると
くっきりと そこに あなた
すり減った石だたみを時雨で濡らして

もう帰りましょ
百年目の声であなた
停まってくれないタクシーを追いかけて
月明かりの墓地に着いた

本日
月面に降り立ち
つゆ草でたがいの白髪を染めて
また 旅に出る
まだ見ぬ 本籍地へと

絶海の村


この村は地図には載っていなかった
海岸線も 村人も
刻々と寸法を変えてしまうから

たそがれの輪郭をした男に道を尋ねた
真っすぐ行きなっせぇ
どこまでも真っすぐ行きなつせぇ

断崖を覗きこんで
ためらっている人がいた
乳飲み子を抱いた病める母親

太陽がこなごなに砕けてできた
三角波の家並
指に水掻きをつけた村人が
そぞろ歩いている

茜色の水平線をめざして
夕波を掻き分け 掻き分け
巡礼の長い列が行く
先頭から
順に
熔けていく

かもめの群れが
急降下をくり返している

廃屋


歳月を齧るうちに
脳みそも一緒に頬ばってしまった

占いをし過ぎて
水晶玉も混濁してしまった
天国が逆さまに霞んで見える

泣けるかどうか 鏡に泣いてみる

肋骨に蔦がからまっている
掻き分けて覗きこむと
こころざしが
満帆のまま錨を下ろしている
(なんだ そこに居たのか)

わだかまりが腫れて
掻けば掻くほど
あ 剥がれてしまった
目玉が 頭髪が…

ころげ落ちた頭蓋の広場で
大観衆が
床を踏み鳴らしてゴスペルを歌っている

庭師を呼んでくれ
脳細胞を剪定してくれ

大富豪


家に帰ろうとして
道に迷ってしまった
たしか
こんな一本杉の原っぱがあった
小川に沿ったあんな小径がつづいていた
けれど ぼくの大邸宅が見つからない

シャンデリアの下で
ほくそ笑みながら
金貨を数える毎日だった

やっと
どでかい寝ぐらにたどり着いた
ぼくの庭のあちこちで
デートするカップルたち
東京スカイツリーもそびえている

あゝ
夏の夜の爽やかなそよ風よ

星空に
精一杯のくしゃみをする

金貨が 金貨が 金貨が
滝になって降ってきた

なにもかもが ぼくの独り占め
ダンボールだっていくらでも
ダンボールなんていくらでも

昔も今も


畜生!
玉砕という美名のもとに
どうして おれだけ生き残ったのだ

おれの位牌の前で
妻は再婚
もう 心中する相手が居なくなっていた

空中浮遊ができる という髭男が
しきりにマントラを脱糞していた その頃

悪いのはわたしです と
破綻会社の社長は詫びたが
路頭に迷った人 二万人

離婚訴訟の紙吹雪
傷つけあう相手ばかりになった

屋上から飛び降りる どうしても
という女がいた
代りに飛び降りてやった ら
通行人を殺してしまった

誰でもいい
殺人と自殺を同時にやるんだ どうしても
という男がいた
おお 神よ
乾いた音がして
薬きょうと一緒に男が弾け飛んだ

簡易宿泊所の二段べッドで
ひたすら祈りを捧げている老人がいた
月面に立ったこともある という人だ

わが家族


わが父は
栄光のサファリー・ラリーに出場して はや百年
まだゴールインしていない

母は
呑んだくれの塵となって
宇宙の淵をさ迷いつづけている

妹は
むかし むかしの大昔
幼稚園の遠足で竜宮城へ行ったきりだ

兄は
家族を探索する支度をしているうちに
昨日 九十九歳で逝ってしまった

おれは と言えば
散髪のあと 
そのまま象の密猟に出かけた が

猛獣どもに
身ぐるみを献体
腸内を さんざん散策したあと

オアシスのほとり
ほくほくと湯気を立てながら
父と遺恨の碁を打っている

寡黙にひろがる鰯雲が
夕陽に染まって
ゆっくりと 流れている


越境者


垣根をくぐって
隣のネコが
うちの庭を
専用トイレにしていやがる

もともと垣根は
まっさらな白地図に
人間が 
先を争ってラインを引いたもの
それを 縮めろ伸ばせ
で 有事を頻発させてきた

いまでも 垣根を越えて
家人を水鉄砲で追い回したり
垣根の内側に
さらにロープを張って
プロレスゴッコをしたりして

あっ
ネコがまた 平然と垣根を侵してきた
空高く 雁行が悠々と垣根を侵している

重罪である

鳥の巣


豪華な調度に囲まれて
賑わう一家団欒の宴

あゝ この幸せのひとときを
どれほど夢見たことだろう
おれも ようやく一城のあるじ
一人前の男になったのだ

地球人が 勝手に
火星に火星人を住まわせた
ように
華美で豊満な生活こそ
豊かで幸せな人生 と
地球人が 勝手に
自分の脳に棲みつかせてしまった

薄暗い空き部屋を覗くと
強欲パーティの青鬼たちが
人々の通帳を 
黙々と齧っている  

空き家が目立つ大都会
帰る巣を見失った鳥たちの
失望と悔悟が
冷え冷えとした家並の上を
懸命に旋回している

不便を便利 にして
便利を便利 として
心地よく住める
人それぞれに ふさわしい
鳥の巣を探しながら

 

スマホゲーム


四つんばいをクリアした幼児が
転ぶことを恐れず
転ぶまで 次の
立ち歩きを遂げようと

その心意気が
さらなる意欲を誘って
多様な
多彩な
多面の
テクノロジーを積み重ねて
登場したスマートフォン

人々の
寝食を蝕(むしば)みながら
人々の全時間を丸呑みしながら
このスマホ
世界の大通りを
濁流となって駆け抜けている

飲み込んだ無限の時間量
その重みに
地球の自転が
もつれ もつれて
世界の時刻をスリップさせてしまった

平静を取り戻した人々
一斉に
熟睡の寝息をたてて
失った時間を数えて いる

旅(偽装社会③)


春が来た どこに来た
テレビに来た
嬌声が溢れている

ならば おれも
日本中の絶景に
落書きを残してきた このおれだ

ネットで
あれだ これだ
未踏の地を検索して
文明発祥の
ユーフラテスのほとりをクリックした
(もう 美しい日本には ほとほと飽きた)

非戦闘地域のはずの戦闘地に
不気味に広がる瓦礫の山々
これこそ一枚の絶景

イスラム兵士になった おれ
バズーカー砲で文明を一撃した
よし 上出来だ

この二枚の画像を
合成処理して
世界の友に一気に配信した
感傷的なコメントを添えて

次は 宇宙の糸川博士に遭遇して
宇宙論を語り合うるつもりだ

無策の末

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犬の散歩



飼い主を 人間を
信じ 信じつづけ
待って 待って 待ちつづける
犬たちの のたうち吠え

処分室への道すがら
危うく 死神の股間をすり抜けて
わたしの股間にたどり着いた犬がいた
愛犬ポンタだ

ある朝
いつものように
ポンタに湖畔を散歩させていた
爽やかな気分に浸りながら

? あれっ
わたしが首輪をはめて
尻尾を振りながら
散歩をさせられている

もの言えぬポンタ
いつも従順に
可愛らしさを振りまきながも
あのポイ捨ての記憶が
彼の心の芯で疼きつづけている

もの言えぬポンタ
たとえ買われた愛玩 でも 
いのち対いのち
その繫がりに節度を求めている

翌朝
ポンタと湖畔を散歩した
いつものように
爽やかな気分に浸りながら
もの言わぬ
この生き物の心情を測りながら

造花[偽装社会②]


春遠からじ
ネクタイ締めて
婚活なるものに出席した

世界の名だたる伝説美女10数人
それぞれ
得意のポーズで咲き乱れていた

横顔の美しい女性がいた
だれだろう?
若い頃のあのドヌーヴか
不意にこちらを向いた
直感と直感が
たがいの瞳を貫いた

翳りのある交錯した顔
キュビズムの女性だった 

デートを重ねながら
違和感があった
「あんた ほんとに女?」
「ノン あなたは?」
「ぼく 男でも女であるんだ」

祭り(偽装社会①)


かの国の子どもたち
家々から駄菓子をねだる
その夜を

待っていました
この国の
にわかクリスチャン数千人
スクランブル交差点を埋めつくす

くり抜きカボチャの仲間たち
ごろごろ ゴロゴロ
抱き合い ぶつかり合いの
空騒ぎ

いいじゃないか いじゃないか
つらい現世を乗り越えて
非正規の身分も踏みつけて
妖怪・魔女になりきれれば
ええじゃないか えじゃないか

世界の数ある祭事の
(クリスマスも バレンタインも…)
商的仕掛けを盛り上げる
おれたちゃ みんな祭り好き

新天地へ


累々と積み重ねた
前借り 前々借り 前々々に耐えかねて
家が 家々が 家々々が
大音響をあげて倒壊した

地下エネルギーも枯渇して
「原子力」の増設ラッシュ ラッシュ
地球がひび割れてきた

もうダメだ
すべての核を
地下深く廃棄してしまえ
数十万年後に免罪されるまで

さあ われわれは
宇宙へ 別の惑星へ 
無垢な 青い空と緑豊かな星々に囲まれた
われらの新天地へ

さらば 
相次ぐ殺人ゲームで
怨念が立ちこめる墓碑銘群よ

さらば 
尽きぬ強欲で
庶民らの格差を仕掛ける者たちよ

さようなら
未練を包んで残してきた
亡き愛妻との悲喜こもごもよ

なにもかも 一刹那のことだった
あれも 現われては消え
これも 現われては消えて

園丁の旅


かつては果樹園の園丁だった
肥沃な土地をはぐくみ
たわわな実りを
青空いっぱいに散りばめる
幸せな日々を送っていた

自然の劣化が加速して
どもりのコオロギが
隙間風のように啼きはじめた

山裾の豊かな草地に
のどかな時間を食む
放し飼いされた羊の群れ
その一匹になって 旅を重ねた

安らぎの懐を探し当てた
懐かしい寓話が霧となって流れる森だ
樹々の幹から
小鳥たちのさえずりが湧き出ている

大地に両脚を植えた
こうして 日向ぼっこをしながら
待っていよう
こうして 森の摂理を呼吸しながら
待っていよう

両脚に 根が生えるまで
両腕に 抱えきれない果実が実るまで

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顔の雑草


人の顔は 狭いながらも大自然の裏庭だ
手入れを怠ると
それっ とばかりに雑草が繁茂する

人はだれでも 
剃っても 剃っても
剃りきれない古傷を 
髭の根元に秘めている 
それが 絶え間もなく雑草を発芽させるのだ

加齢とともに
髭の伸びが加速しだした
わたしの余命を察知して
がぜん
わたしと一緒に
命の末をまっとうするつもりなのか

そろそろ 
閻魔がわたしを盗みにやってくる
髭を丹念に剃り落として
半世紀も前のわたしの
男前を鏡に残しておこう

古傷は寝かしつけよ
ねんごろに子守歌を聴かせつづけよ

時間がよどみはじめて
古い掛け時計が ふっと停まった
鏡には 雑草が繁茂した裏庭が
 

おれたち賛歌


努力したくなければ
努力しないで生きればよいのだ

努力しないで
おれたち
敗戦後の街角で 
コーラをせっせと飲んで
血液すべて コーラに入れ替えた

そしたら
スピードラーニングなしで
みんな 英語をしゃべれるようになった
スラング混じりの片言で

おれたち 
勝者の押しつけを阻むために
愚行をくり返してきたが
結局 垣根を越えさせられてしまった

だが 
おれたちと
おれたち以前の おれたちの
努力もしない 献身的な冒険が
なんでも かんでも
不測のほころび塞ぐ当局に
無毒の社会を整わせてきたのだ

夢の行き先


勝った 負けた
上がった 下がった
国をあげての
どしゃ降り通貨のから騒ぎ

自己陶酔にふける踊り手たち
桁ちがいのプールに
ずぶり ずぶり ずぶり
際限もなく
強者をより強くして

たどり着けるハズの明日は
たどり着けない明日だった
富がますます片寄っていく

満天の星空のもと
犬の遠吠えが吹き抜ける裏町の
壊れかかった家々

明日へのかなわぬ夢を枕に
今夜も
眠れぬ人々がいる
押しつけられた 自己責任を抱えて

ヒトは もう


勉強ぎらいが災いして
格差社会の餌食になってしまった
遅ればせながら猛勉強を と
窓を開けた ら

街にはロボットがのさばっていた
ヒトの知能を移植された天才たちだ

世は ヒトどうしの受験競争に代わって
合格必至の
天才ロボットの獲得競争になっていた

ヒトは もう
知能を高めてはならない
ロボットの脳力を補強するだけだから

ヒトは もう
遊興 快楽 蓄財に没頭していればよい
人生に悩んだり
問題を考えたり 解いたり
しなくてもよくなった

書斎から出てきたパスカル
頭を掻きながら 前言を訂正した
「ロボットこそ考える葦である」 と

ロダンは いま
「考えないヒト」 の制作を急いでいる

ゴリラのひと声(改)


ゴリラが背伸びして
こちらを覗きながらドラ声を発した
ついに 地球が痙攣を起こしてしまった

大津波が
人々を 村々を 陸を海を 呑みつくし
原発が
人々を 村々を 陸を海を 汚染しつくした

起て! 世界の生き物よ
種の発生以来 寡黙を貫いてきたゴリラだが
緊急発信した
おれたち 行動すべきときがきた

訥(とつ)弁のひと声こそ

壊滅した原子力発電所
その中で
養殖された大量のホタルによって
家々の居間に明かりが灯った

汚染に追われたクジラが
大挙して寄港してきた
その腹に避難していた村人を乗せて

村の樹々に小鳥の声が芽吹いてきた

ゼンマイ仕掛けのオスプレイが
子どもらに追われて
枝から枝へ 飛び回っている

平穏が驟雨となって降り注ぐなか
「神を恐れよ」 と
ゴリラ 最後のだみ声を残して
もとの密林へと還っていった

「彼ら」の行方


気お付けろ!
里から 矢継ぎばやに
鉄製の猛獣が襲来してきた
巨木とともに
おれたち生き物を踏みつぶしている

彼ら せっせと
好き勝手に 縄張りを拡げつづけてきた

広大無辺の縄張り ついに成り
広大無辺の森 ついに尽きて
彼ら 自らが拡げた柵内に
自らを飼育するハメとなってしまった

かつて
彼らは チンパンジーを絶滅危惧種としたが
いま
ジャングルの奥の チンパンジーが
しきりに 彼らの絶滅を危惧している

「秘密」の極意


分からないよ そんなこと
そうは言ってきたが
やっと分かったよ
その女性の所在が
不特定だったことだけは

そういう細かいことまでは
知らないよ 分からないよ
心ならずも
お前の不信を招いたこと以外は

もう いいだろう
お前の疑念を
真摯に 重く 受けとめて
心から 深く詫びた のだから
丁寧に 説明責任 も果たしたのだから

もう忘れてくれよ しばらくの間だけ
わが家の平和と安全が
なによりも なによりも大切なのだから

メルヘンの旅


【磁力】

メールに唇を貼り付けた男女は
カスピの海辺で落ち合った

サンセットとともに沈んでいった

【行方】

ローソクの炎に寝そべりながら
砂丘の隊商を頬張る

【薄暮】

三日月
スフィンクスの背に 
目覚める

【夏の終り】

飛び込み台に立った少女は
夕陽に濡れた瞳を
おっと すべり落してしまった

海面の斜陽が
少女のしわを伸ばしている

【きずな】

少年が 遠い偶然に撃たれる

孤独の石像が真っ二つに割れた

熱い西瓜


すいかを買ってきた
持つと やけに暖かい
地球温暖化のせいかも

冷蔵庫で冷やそうと
包丁を入れると
あっ 赤い熱湯がほとばしり出た

そうか
待っていたのか

終ることのない世界の紛争で
理不尽に殺戮された人々の血が
訴えるこのときを 待っていたのか

この血まみれの地中から
この小さな球形へ
吸い上げ 圧しこめた熱い怨念の
世に問うときを 待っていたのか

地球を掘る
みんなで深く 深く掘って
丸ごと 丁重に埋めた
爽やかな味覚の すいかの再生を願って

体臭


月の砂漠の真っただ中で
野営をしていると
砂漠が 
らくだに乗ってぼくを跨いでいる

本当かどうか
自分の体臭を嗅いでみた
やはり
ぼくは らくだに乗った砂漠だった

彼岸の午後

孫が久しぶりに訪ねてきた
仏壇に線香を手向けると すぐ
スマフォに両目を埋めこみはじめた

なにもしゃべらない
なにも食べない
なにも…

あ 孫がいない
スマフォだけが テーブルの上に坐っている
その大きな口を思いきり開けて

たなびく線香の煙になって
空白の時が なにごともなく流れている

傲慢だけが

赤字まみれの家が激しく燃えている
燃えきれない一家が
債務を抱えたまゝころげ出てきた

消火のさなか
太った熱帯魚たちが
われ勝ちに 水草の株をついばんでいる

荒涼が吹き抜ける路地裏
悲嘆でずぶ濡れのその一家が
当てもなく さ迷っている と

おい こら 
生存許可証を提示せよ

腹を満たせば 無銭罪 
個人的自衛権を行使すれば 妨害罪
ふて寝をすれば 浮浪罪

たどり着いた収容所
朝から行き倒れの搬入がつづく
夜は夜で 歯ぎしりの大合唱

個人と個人 国家と国家の間でも
ますます拡がる隔たりに
傲慢だけが棲みついて

おい こら
生存許可証を提示せよ

悲憤の燃え殻が 
いたるところで くすぶっている



みんなが同族

宇宙の片隅に
科学技術の王国がある と聞いた
その果実をみんなで頬ばりあっている とも聞いた

彼女 希望の翼いっぱいに広げて 
伸びやかに…

まるで楽園だった
全員参加で仮面大会を催していた
連日連夜 一年中
歯列に配置された監視カメラから
みんなの秘密をみんなで守るため と知った

運動の盛んな国だった
スポーツジムはどこも満杯
大通りにはジョギングの列が延々と
連日連夜 一年中
ロボット依存で劣化した筋力を
蘇生するための共同作業 と知った

みんな 自分の内部を深い濠で囲んでいた
強者から勝者へ 
弱者から敗者へ 
すべてが予定どうりに決まっていくのだから
濠は 牙をさえぎるみんなの分別 と知った

なにから なにまで
一斉に同じ方向へ走り出す
一卵性のクローン族

超高層ビル群の屋上で
ただ独り とり残された彼女は
ふるさとへの追憶に乳首を含ませながら
ひたすら待っている
ひたすら 帰還の翼を待っている

 

あすの運勢

運勢が「吉」と出たので
久しぶりにいいことに出会える
はずだったが

雲の波間に飛行船がたゆたっている
まばたきする と
轟音をあげて 軍用機が堕ちてきた
オスプレイだ
急いで 救援を!
なぜか 他国の障壁で救助できなかった

轟音 あっちでも こっちでも

みんな楽しげな 海水浴場
まばたきする と
病んだイルカの大群がいた
追加の荷駄を背負わされて 
なぎさに打ち上げられている
急いで 救援を!

まず 有識者会議を立ち上げ
それから 慎重に 
慎重に審議することとなった

あれも これも
これも あれも
すりかえ はぐらかし さきおくり

屈託なく のたまう増長天
あすこそ「大吉」
アンダー・コントロール 
あさっても 「大吉」…

葬列が行く

譜面に配置された者たち
権力の指に弾かれて
ぬかるみを行く
七色の悲鳴をあげながら

白紙の遺書を振りかざして
幾千の悔恨を踏みしめながら
骨肉の末に思いを残しながら

黒装束を剥いで見よ
剥いで見よ
隠された意図を暴(あば)いてみよ

損と得との
ラインとラインとの
教えと教えとの せめぎ合い
結果 人と人との殺し合い

ひゅ~う ひゅ~う
墓地がざわめく と驟雨

苔むした墓標に
譜面から消された者たちの
瞑目した片目が坐っている
雨に濡れそぼりながら

母の杞憂(きゆう)

愛の呪文を唱えながら 母は
玉のような希望を産み落とした

大きくなぁれ 早く
大きくなれば
すぐに三輪車に乗れるようになる

転んじゃいけないよ
いったん躓(つまづ)くと
際限もなく堕落しちゃうから

小さくなろうね もっと
小さくなれば
それだけ世間の冷たい風に当たらなくなる

優しい白熊の言葉に 騙されないだろうか
狼の腕力に負けて監禁されないだろうか

気をつけな
安易な「出生」には
地獄の苦しみが待っているものなんだよ

年ごとに加算される気苦労
母は日ごとにやせ細って
ついには体重を失ってしまった

母の日に届いた
一輪の紅いカーネーション

ぼくの大邸宅

家に帰ろうとして 道に迷ってしまった
たしか こんな一本杉の原っぱがあった
たしか 小川に沿ったあんな小径があった
けれどなぜか ぼくの豪邸が見つからない

きらめくシャンデリアの下で
金貨を数える毎日だった 
(ほくそ笑みながら)

何度も
小川のほとりの 小径をたどってみた
一本杉の原っぱを 横切ってもみた
けれどなぜか ぼくの豪邸が見つからない

どでかい寝ぐらを見つけた
庭のベンチでは 何組ものペアがデートしていた
東京スカイツリーもそびえ建っていた
ダンボールならいくらでも

うっぷんをこめて
精一杯のくしゃみで夜空を揺する と
金貨が 金貨が 滝になって降ってきた
独り住まいのぼくの 大邸宅

残像

忘却に蝕(むしば)まれていないだろうか
鮮度を失っていないだろうか
遠い記憶

少年期の草原があった
希望が咲き乱れた憩いの場所だった
槌音が響きわたって
高層ビルの新都市になった

緑豊かな森に出あった
小動物たちとキノコの採取に没頭していた
が 部落どうしの諍(いさか)い
地中のミミズになったぼくは 時間の塊を徒食して暮らした

彼女ができた
たがいに盲目となって 愛し合った群青色のひととき
眼を開ける と
幸福の島々がぶつかり合い 
泡になって沖合いへと消えていった

孤独なクジラになった
物悲しく潮を吹き上げながら 大海原を泳いでいた

どこか どこかへ
どこか違うどこかへ
扉を探して さ迷った日々だった

遠い記憶
手を伸ばすと ためらいながら現われる
引っこめると そっけなく消える
遠のいてゆく残像

サソリの季節

春風の芽摘みをしよう
と街へ出た とたん
尻がむず痒くなった
サソリに噛みつかれた兆候だ

もぞもぞと 尻尾が伸びてくる
頬ばってしまえ
サソリのくぐもった声に
尻をからげたまま
独り ぽくぽくと尻尾をむさぼる
(投資だ 享楽だ ギャンブルだ)

すってんてん

ならば と
サソリの魂胆が冴える
尻を少しずつ (パーセントで)
少しずつ カンナで削りとってくる

なくなってしまった

その耳に聴こえるか
春風に乗せて
魅惑のセレナーデが奏でられているのを
サソリの奴
見さかいもなく
人々のささやかな夢に潜りこむ

間断なく降りしきる桜花
夢心地がずぶ濡れになる
ほら また尻がむず痒くなってきた
もぞもぞ もぞもぞ
尻尾も伸びてきた

テーマ :
ジャンル : 小説・文学

二人の関係

禁断の果実に飽きて
二人は
いつもの仲たがいをはじめる

金魚の世話はあなたよ
養殖で大儲けする気なんだから
キツネの飼育は お前
勝手に生んだんだから

神々の悪意が待ち受ける辻々
不器用に手をたずさえて
黄昏の街を抜けた 二人
鉄橋上から
遥か 暮れなずむ地球の淵を覗きこむ
とたん

轟音と噴煙に先手を打たれ
行方不明となる

どこだ どこだろう

金魚鉢の中の二人
を発見した彼ら
いつもの仲たがいをつづける

大儲けはどうしたのよ
お前こそ キツネを騙したせいだろう

長い ながい二人の下り階段
分岐していて

テーマ :
ジャンル : 小説・文学

廃寺

舌を一枚だけ抜いて
男が 過去帳に貼りつけに行く

おっ 杉並木から無数のひぐらしが飛びたって
殺意が目の前をよぎった
何者だ

背中を丸めて庫裏へ走りこむ女が
振り向きざま しなやかな裸体を見せた
とたん 男に罪科が加えられた

蜘蛛の糸が執拗にからんでくる

破れ障子をのぞくと
女が 右手で地獄を編みながら
男の舌を抜いている
左手で極楽をほどきながら
男の 欲望を食いちぎっている

ふところに手を入れて
何者だ
無花果(いちじく)の樹の下を駆け抜けて行つた者がいた



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ジャンル : 小説・文学

強制執行

深夜 激しいノックの音がした
宅配便だろうか
峨が一匹 玄関に落ちていた

ひそやかに内臓に飼っていた小虫が
春秋を喰い散らかして
がぜん 病院へ行けと強要しはじめた

病人 ぞくぞく
遺体 つぎつぎ

見舞い客・客が観光バス・バスで駆けつける
ご先祖代々への伝言 山ほど抱えて

あれぇ? 医師が深々とこうべを垂れた
家族が手分けして走り出した
(おいおい おれはまだ…)

恐れるな 怖がるな
この世に生れ落ちたとたん
だれでも あの世ゆきを予約したのだから

式典ぼそぼそ
あの世に先着した男が 自分の生中継を見入っている
鼻毛を何本も抜きながら

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冬いろ

だれが雪を白いろときめたのか
雪は雪いろ

盲目の少女の瞳に降りしきる小雪
萎えた眼窩(がんか)に小指を遊ばせながら
彼女は冬を耐えた

だれが恋をバラ色とよんだのか
恋は恋いろ

見知らぬ王子への愛を書き上げたころ
季節めぐりてまた冬がきて
木枯らし広場に一人 とり残された彼女

とめどなく降りかかる失意をぬぐって
ようやく迎えた静謐のひととき

少女は陽だまりにうずくまり
あすの小指に
爪いろのマニュキアを塗りはじめる

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里帰り

どこに隠れていたのだろう

もういい~かい い~かい
声帯をそよがせながら 鬼が山裾を駆けおりる
澱んだ予感を運んでくる

ひと雨ありそうだ 急がねば

薄暮の奥から
霧笛がむせびながら応えている
まぁ~だだよう だよう

橋の下で嬰児が泣き叫んでいた
自分で自分を拾うのは どうも
知らぬ顔で通り過ぎた

だれだろう
亡き母の部屋で密談するのは
近寄ると ぷっと灯影が消えるのだ

野辺送りの祭り
鬼が薪割りダンスを踊りながら
燃えたぎる篝火に遠雷を投げ入れている

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折々の景色

無精ひげを枯らして
森が怠惰に寝そべっている

その日 快晴
樹々の音合わせを合図に
せめぎあって飛び立つ花びらたち
そよ風を舞いながら
草原のかなた かなたへと…

華麗な演奏がはじまる
お 見渡す限りの
ひまわりが踊りだした
ひとときの宴

やがて 秋の日の吐息が
ひとつ
またひとつ 
蒼空に足跡を残して流れていった

季節がわななく
樹々が
身もだえしながら衣裳を脱ぎ
朽ちる位置を探して横たわる

風景がとっぶりと褪せていった
木陰に目覚めた悪霊が
森からの脱出をしきりに窺っている

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僭越ですが

磨きすぎて とうとう
のっぺらぼうになってしまった あなた
だけどさ
なにも鼻なんかなくてもよいのですよ
象じゃあるまいし

顔とは 内なる異臭をふさぐもの
活火山であるか 丘陵であるか
だけ なのに
新しい顔に替えると言い張って
ほうら
裏返しに付けてしまったじゃないですか

あなたは 香水の厚着をして
隙間という隙間をふさいで
いそいそとベットにもぐってしまった
やがて 定規のように眠りこけるために
かぼちゃの馬車に乗るために

牡蠣(かき)の殻をこじあけるには
くすぐるとよい と言いますが 

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遡行

起源に近づく方法を探して
分厚い時刻表をひも解いてきた
神仏の魂胆で書かれた運行表には
閉じ込められた膨大な時間が 悲鳴を軋ませていた

もう一切が印刷済みというなら よろしい
刻(とき)の匂いを辿って
果てしない旅をつづけよう
ひたすら逆行する旅を

いきなりプラットホームに投げ出された
わっと 叫ぶと
わっと 口腔に隕石が飛び込んできた
刻を戻り過ぎてしまったらしい

大地が激震におののいていた
月との復縁を夢見て地球が悶えているのだ
霞んだ視野に
遣月使が怒涛の航路を昇って行くのが見えた

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わが街

向こうから美人(らしい)がやってきた
つい目を伏せる
と 足元に千円札が落ちていた
思わず またいでしまった

嘘をつくな というが
いつもの気弱の 
その 後始末に追われて生きているんだ

だれかの声が だれかを呼び止めている
だれも立ち止まらない
声を荒げて何度も呼び止めている
それでも だれも振り返えらない
と いきなり駅員が暴力を振るった
善良なこのぼくにだ

悪いのはそっちだ
ポンと触れるだけで改札を出入りできるなんて
だれでもそうしたくなるじゃないか

手配に追われて
地下にもぐった男が
いま 地上百メートルの現場から
この街をしげしげと見下ろしている
些事がまだらに起こる ありきたりなこの街を

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天国への道

どれほど待っただろうか
乗ってしまえば
まっしぐらに天国へ行ける あの豪華列車を

待ちくたびれたセレブな乗客たち
秘めやかに咲き乱れはじめた


山高帽をけっして脱がない男がいた
嘘のような本当を
本当のような嘘で固めた女がいた
ふいに 太陽に晒された二人の秘めごと

勲章を肋骨に吊るした夫は
山高帽に決闘を挑んだが
尻ごみだけが勝利して

永遠の尻込みはない 賭けてもいい
ほうら 
列車が到着した

それぞれの生い立ちに別れを告げて
安堵に腰かけた とたん
あ 行き先が逆だ!

勲章を投売りしている男がいる
山高帽を踏みにじっている男がいる
それでも
列車はひたすら 闇へと駆け込んで行く


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ゴリラ起つ

ゴリラが背伸びして
こちらを覗きながらつぶやいた
ついに 地球が痙攣を起こしてしまった

原発がつぎつぎと壊れて
陸も海も
シーベルトなるものらに占拠された

山々も一斉に噴火した
人間のいさかいで流された血が
堪忍袋に貯蔵しきれなくなったのだ

数万年来 寡黙を通してきたゴリラだが
スマホで発信した
起て! 世界のゴリラ族よ
おれたち 参政権を持つべきときがきた

(フェイド・アウト)…

原発で養殖した大量のホタルが
家々の居間を灯すようになった

汚染に追われたクジラが 大挙して帰港してきた
その腹に避難していた村人が
汚れた顔を輝かして 里帰りを果たした

村の樹々に 小鳥の声が芽吹いてきた
蜘蛛が 糸を張って
子どもたちと図形学の復習を再開した

ぜんまい仕掛けの玩具になったオスプレイ
平穏が 驟雨となって世界に降り注いでいる

ゴリラ 密林に還るも 
黙して語らず

【落書き】ゴリラが黙秘を貫くのは、人類との遠い縁戚関係を恥じているから 

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プロフィール

toruta

Author:toruta
・1934(昭和9年)8月 東京生まれ
・1992(平成4年)3月 詩集「仮面中毒」上梓
◇詩空間は「青年」の発信広場。すこし齢を重ねましたが、私の「青年」はいま真っ盛りです。
◇私は敗戦後70年を遍歴した者として、身近にこぼれた諸現象を、腰を屈めてたぐっていきたいと考えています。

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