旅(偽装社会③)


春が来た どこに来た
テレビに来た
嬌声が溢れている

ならば おれも
日本中の絶景に
落書きを残してきた このおれだ

ネットで
あれだ これだ
未踏の地を検索して
文明発祥の
ユーフラテスのほとりをクリックした
(もう 美しい日本には ほとほと飽きた)

非戦闘地域のはずの戦闘地に
不気味に広がる瓦礫の山々
これこそ一枚の絶景

イスラム兵士になった おれ
バズーカー砲で文明を一撃した
よし 上出来だ

この二枚の画像を
合成処理して
世界の友に一気に配信した
感傷的なコメントを添えて

次は 宇宙の糸川博士に遭遇して
宇宙論を語り合うるつもりだ

ヒトは もう


勉強ぎらいが災いして
格差社会の餌食になってしまった
遅ればせながら猛勉強を と
窓を開けた ら

街にはロボットがのさばっていた
ヒトの知能を移植された天才たちだ

世は ヒトどうしの受験競争に代わって
合格必至の
天才ロボットの獲得競争になっていた

ヒトは もう
知能を高めてはならない
ロボットの脳力を補強するだけだから

ヒトは もう
遊興 快楽 蓄財に没頭していればよい
人生に悩んだり
問題を考えたり 解いたり
しなくてもよくなった

書斎から出てきたパスカル
頭を掻きながら 前言を訂正した
「ロボットこそ考える葦である」 と

ロダンは いま
「考えないヒト」 の制作を急いでいる

「秘密」の極意


分からないよ そんなこと
そうは言ってきたが
やっと分かったよ
その女性の所在が
不特定だったことだけは

そういう細かいことまでは
知らないよ 分からないよ
心ならずも
お前の不信を招いたこと以外は

もう いいだろう
お前の疑念を
真摯に 重く 受けとめて
心から 深く詫びた のだから
丁寧に 説明責任 も果たしたのだから

もう忘れてくれよ しばらくの間だけ
わが家の平和と安全が
なによりも なによりも大切なのだから

熱い西瓜


すいかを買ってきた
持つと やけに暖かい
地球温暖化のせいかも

冷蔵庫で冷やそうと
包丁を入れると
あっ 赤い熱湯がほとばしり出た

そうか
待っていたのか

終ることのない世界の紛争で
理不尽に殺戮された人々の血が
訴えるこのときを 待っていたのか

この血まみれの地中から
この小さな球形へ
吸い上げ 圧しこめた熱い怨念の
世に問うときを 待っていたのか

地球を掘る
みんなで深く 深く掘って
丸ごと 丁重に埋めた
爽やかな味覚の すいかの再生を願って

みんなが同族

宇宙の片隅に
科学技術の王国がある と聞いた
その果実をみんなで頬ばりあっている とも聞いた

彼女 希望の翼いっぱいに広げて 
伸びやかに…

まるで楽園だった
全員参加で仮面大会を催していた
連日連夜 一年中
歯列に配置された監視カメラから
みんなの秘密をみんなで守るため と知った

運動の盛んな国だった
スポーツジムはどこも満杯
大通りにはジョギングの列が延々と
連日連夜 一年中
ロボット依存で劣化した筋力を
蘇生するための共同作業 と知った

みんな 自分の内部を深い濠で囲んでいた
強者から勝者へ 
弱者から敗者へ 
すべてが予定どうりに決まっていくのだから
濠は 牙をさえぎるみんなの分別 と知った

なにから なにまで
一斉に同じ方向へ走り出す
一卵性のクローン族

超高層ビル群の屋上で
ただ独り とり残された彼女は
ふるさとへの追憶に乳首を含ませながら
ひたすら待っている
ひたすら 帰還の翼を待っている

 
プロフィール

toruta

Author:toruta
・1934(昭和9年)8月 東京生まれ
・1992(平成4年)3月 詩集「仮面中毒」上梓
◇詩空間は「青年」の発信広場。すこし齢を重ねましたが、私の「青年」はいま真っ盛りです。
◇私は敗戦後70年を遍歴した者として、身近にこぼれた諸現象を、腰を屈めてたぐっていきたいと考えています。

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