遡行

起源に近づく方法を探して
分厚い時刻表をひも解いてきた
神仏の魂胆で書かれた運行表には
閉じ込められた膨大な時間が 悲鳴を軋ませていた

もう一切が印刷済みというなら よろしい
刻(とき)の匂いを辿って
果てしない旅をつづけよう
ひたすら逆行する旅を

いきなりプラットホームに投げ出された
わっと 叫ぶと
わっと 口腔に隕石が飛び込んできた
刻を戻り過ぎてしまったらしい

大地が激震におののいていた
月との復縁を夢見て地球が悶えているのだ
霞んだ視野に
遣月使が怒涛の航路を昇って行くのが見えた

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天国への道

どれほど待っただろうか
乗ってしまえば
まっしぐらに天国へ行ける あの豪華列車を

待ちくたびれたセレブな乗客たち
秘めやかに咲き乱れはじめた


山高帽をけっして脱がない男がいた
嘘のような本当を
本当のような嘘で固めた女がいた
ふいに 太陽に晒された二人の秘めごと

勲章を肋骨に吊るした夫は
山高帽に決闘を挑んだが
尻ごみだけが勝利して

永遠の尻込みはない 賭けてもいい
ほうら 
列車が到着した

それぞれの生い立ちに別れを告げて
安堵に腰かけた とたん
あ 行き先が逆だ!

勲章を投売りしている男がいる
山高帽を踏みにじっている男がいる
それでも
列車はひたすら 闇へと駆け込んで行く


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自画像

知ってるか
人生はグラスであることを
ゆえに 破局は唐突にやってくる
それゆえ
自分をもう一つ遺しておこうと思う

過去を裏返して しばし冥想

悲しみを喉まで詰めこんで
陰鬱の森をさ迷っていた

廃屋があった
ぼくの遍歴が
埃まみれに積み上げられていた

再生作業に取りかかる
大変だ千本もある
(だれかが ドア・ホーンを鳴らしている)
まだ輪郭もできていないのに
(だれかが 玄関に入ってきた)
駄目だ もう間に合わない

とっさに塗りつぶす
過去のすべてを塗りつぶす
すると もうひとつのぼくの輪郭が

間一髪だった
グラスが唐突に砕け散った
玄関に しわくちゃなぼくが落ちていた
 

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あすで終わり

サーカスのチケットをあげる
これから運河に身を投げるから
あす 余命日が終るので と
見知らぬ老人
ありがとう お達者で

街路樹かさかさ 信号のろのろ
そのさなか
あすの滑稽を
舞台狭しと披露するピエロたち

倦怠をむさぼるマドンナよ
亡夫の遺産を パンティの暗がりに戻したまえ
神々の怒りに触れて
あす ペストに罹るさだめだから

昨夜 あの魅惑の工事を請け負い
口髭を拭って教会へ急ぐステッキ氏よ
アーメンで腹ごしらえをしておき給え
あす エイズに罹るきまりだから

熱演のあまり
客席と握手を重ねるピエロたち
あ 掌を失くしてしまった
にせの貌を配りすぎて
顔も名前も すべて亡くしてしまった

あすは 余命が尽きる日

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プロフィール

toruta

Author:toruta
・1934(昭和9年)8月 東京生まれ
・1992(平成4年)3月 詩集「仮面中毒」上梓
◇詩空間は「青年」の発信広場。すこし齢を重ねましたが、私の「青年」はいま真っ盛りです。
◇私は敗戦後70年を遍歴した者として、身近にこぼれた諸現象を、腰を屈めてたぐっていきたいと考えています。

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