母への挽歌


急を聞いて駆けつけた 永い闘病だった。
母は部品ごとに分解されて 病室に展げられて
いた。優しかったその眼孔は 自分の涙で融け
てしまっていた。
母を引きとった僕は 蘇生させようと 部品の組
み立てに熱中した

母は締りのない蛇口だった。僕に基準値を超え
た愛をつぎ込んだ。かと思うと 凪(なぎ)と時化
(しけ)が交互に発生する港だった。
予告のない叱責がガラス窓を破って飛んできて
何度も僕に失禁させた。

この暑さのなか 裸の女性がブランコに揺られて
いた。そのとき 突かれたように母の豊かな乳房
を思った。なぜかそれは いつも湿っていた。

母は夜行性の動物だった。毎夜 遅くまで家事や
内職に忙殺されていた。 そのあげく僕を宿した。
僕がイリオモテヤマネコを懐かしく思うのは そこ
に母を見るからだった。

結局 母を蘇生できなかったが 追想を秘めた部
品は 僕自身に移植した。だから 母を荼毘にふ
して以来 僕らはずっと 共に生きている。
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プロフィール

toruta

Author:toruta
・1934(昭和9年)8月 東京生まれ
・1992(平成4年)3月 詩集「仮面中毒」上梓
◇詩空間は「青年」の発信広場。すこし齢を重ねましたが、私の「青年」はいま真っ盛りです。
◇私は敗戦後70年を遍歴した者として、身近にこぼれた諸現象を、腰を屈めてたぐっていきたいと考えています。

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