百年目

もう帰りましょう
最後のメッセージを交わしたあと
吹きすさぶ砂塵のなか
あなたはどこへ行ったのか

あれから百年
声を限りに
熱気球を飛ばしつづけた日々
奈落の底に喉ごと落ちてしまった

あな と思ったら
あなたが と思ったら
あなたがいた と思ったら
それは 気だるげにうずくまる黒猫

教会の尖塔に止まって
疲れ果てた身体を干していると
あなたはくっきりと そこに
すり減った石畳を時雨で濡らして

もう帰りましょう
百年目の声であなた
停まってくれないタクシーを追いかけて
月明かりの墓地に着いた

本日
月面に降り立ち
つゆ草の花でたがいの白髪を染めて
また 旅に出る
まだ見ぬ本籍地へと

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テーマ : 詩・想
ジャンル : 小説・文学

おいらの本名

おいらだけを偏質者というな
人は生死ごとに異界と現世を往き来するんだ 

おいらは何度も生まれ変わってきた奴らしい
そうでなければ
現世でこれほど疎まれるはずがない

死んだり生き返ったり
繰り返すうちに幾つも名前をもらってしまった

おいらの顔付も性癖も たしかにおいらだが
本名が思い出せない
だから おいらは
大体おいらだが 大体おいらではない

気安く「おいら」と称してよいものだろうか
体重58キロ(うち頭部0.5キロ、生殖器8キロ)
あとは蘇生のたびに
他人様のご好意を継ぎ合わせたものだ
だから「おいら様」と称するべきだろう

おいら自身が思い描く本名は
姓はジャクソン 名はマイケル
だれも認めてくれない
それゆえ 返事はしないことにしている

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ジャンル : 小説・文学

プロフィール

toruta

Author:toruta
・1934(昭和9年)8月 東京生まれ
・1992(平成4年)3月 詩集「仮面中毒」上梓
◇詩空間は「青年」の発信広場。すこし齢を重ねましたが、私の「青年」はいま真っ盛りです。
◇私は敗戦後70年を遍歴した者として、身近にこぼれた諸現象を、腰を屈めてたぐっていきたいと考えています。

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